IE(インダストリアル・エンジニアリング)7つ道具 ストップウォッチ1つで始める現場改善

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はじめに

「なんとなくムダはある気がするけど、どうやって特定すればいいかわからない」。IE(インダストリアル・エンジニアリング)は、この漠然とした課題を「見える化」し、「数値化」するための方法論の集大成です。

IEは特殊な資格や高価なツールを必要としません。必要なのはストップウォッチ(スマートフォンのタイマーで代用可)、メモ帳、そして鉛筆だけです。本記事では、IEの基本概念から、代表的な7つの手法を「理論」ではなく「現場でどう使うか」に絞って解説します。

IEとは何か 生産システムを科学する考え方

IE(Industrial Engineering、インダストリアル・エンジニアリング)は、日本語では「経営工学」や「生産工学」とも呼ばれます。日本産業規格(JIS)では、次のように定義されています。

「経営目的を定め、それを実現するために、環境との調和を計りながら、人や物、金および情報を最適に設計・運用し、統制する工学的な技術・技法の体系」

噛み砕いて言えば、「人・設備・材料・情報をどう組み合わせれば、最も効率的に生産できるか」を、科学的に測定・分析・改善する方法論です。

よく「工程分析の手法のこと?」と聞かれますが、それは半分正解で半分違います。工程分析はIEの手法の一部であり、IE自体はもっと広い概念です。ムダの特定、標準時間の設定、レイアウト改善、品質管理、さらには人材配置まで、生産に関わるすべての「ムダ・ムラ・ムリ」を対象にします。

IEの歴史 100年前に生まれた考え方

IEの源流は、1900年代初頭のアメリカにあります。

  • フレデリック・テイラー(科学的管理法):作業時間を測定して標準化する「時間研究」を確立。20世紀初頭の工場を科学的な管理へと変えました
  • フランク&リリアン・ギルブレス夫妻:作業の動きを分解する「動作研究」を確立。「サーブリッグ」(ギルブレスの逆綴り)という基本動作要素の概念は、彼らに由来します

この2つがIEの土台です。「作業を科学的に測定し、ムダを見つけ、標準化する」という考え方は、100年以上経った今も現場改善の基本として生き続けています。

トヨタ生産方式との関係

IEと深く関わるのが、世界の製造業が手本とするトヨタ生産方式(TPS)です。トヨタは戦後、このIEの考え方をベースに、かんばん方式やジャストインタイム(JIT)を発展させました。

「ムダ・ムラ・ムリ」の排除、標準作業の徹底、改善(カイゼン)の継続。これらはすべてIEの発想そのものです。トヨタ生産方式は、IEを現場レベルにまで徹底的に突き詰めた成果だと言えます。IEを知らずにTPSを学ぶのは、設計図なしに建物を建てるようなものです。

現代でも使われているのか IoT・AIと進化するIE

「100年前の方法が今も通用するのか」と疑問に思うかもしれません。結論から言うと、IEの考え方は今も現役であり、むしろIoT・AIの進展で再注目されています。職業能力開発校(ポリテクカレッジ)でもIE実践研修が開催され続けており、現在では製造業だけでなく、サービス業、医療、ロジスティクスなど多岐にわたる分野で活用されています。

道具は進化しました。

昔の方法 現代の方法
ストップウォッチでの時間測定 動画分析(スマホ撮影→動作解析ソフト)
紙の工程分析表 Excel・クラウドでの共有・蓄積
目視での作業観察 IoTセンサー・AIによる自動計測
経験則でのレイアウト改善 DI分析(距離と運搬強度の定量化)

大手電機メーカーでは、作業者一人ひとりの動きを動画で撮影し、データベース化して標準時間と実績のギャップを分析しています。自動車メーカーは、IE手法による7つのムダ(作りすぎ・手待ち・運搬・加工・在庫・動作・不良)の排除を今も続けています。ストップウォッチが動画やAIに変わっても、「測定→分析→改善→標準化」というIEの本質はまったく変わっていないのです。

工程分析 全体像を描く

工程分析は、製品や作業がどのような順序で流れているかを「工程記号」を使って可視化する手法です。JIS Z 8206(2016年改訂)で定められた基本記号を使い、加工(○)、運搬(→)、検査(□)、停滞(△)の4つで工程を表現します。

現場での使い方:製造ライン全体をA3用紙1枚に書き出してみてください。すると、「この工程の間に3回も運搬が入っている」「検査と検査の間が近すぎる」といった構造的なムダが一目でわかります。実際に某自動車部品工場では、工程分析を実施した結果、部品の運搬距離が1日あたり約2.3kmも無駄に発生していることが判明し、レイアウト変更により運搬時間を40%削減した事例があります。

動作分析(両手作業分析) 組立工程の改善に直撃

動作分析の中でも、特に実務で使えるのが「両手作業分析」です。作業者の左手と右手がそれぞれ何をしているかを、0.1〜0.2秒単位で書き出します。

具体例:ネジ締め工程の改善

改善前の両手動作:

左手 右手
部品を探す(探し) ドライバーを取りに行く(運搬)
部品をつかむ(持ち) ドライバーを持つ(持ち)
部品を固定する(保持) ネジを取る(運搬)
部品を保持したまま待つ(待き) ネジを締める(加工)

ここで「待き」(持ちながら待つ)があるのがムダです。改善策として、部品を固定できる簡易冶具(万力を置くだけでも効果あり)を導入すれば、左手の「待き」が解消され、両手が同時に別の作業に使えるようになります。

動作分析のコツは、サーブリッグ分析(基本動作要素18種)を暗記する必要は全くないということです。現場で意識すべき動作上のムダは以下の5つだけです。

  • 探す(Search):工具や部品が決まった場所にない
  • 選ぶ(Select):複数の部品から目的のものを選別している
  • 持つ(Hold):一方の手が部品を固定しているだけ
  • 待き(Hold while waiting):持ちながら何もしていない
  • 準備(Pre-position):工具を持ち替えている

これらの動作を1つでも減らせば、改善は成功です。

時間分析 基準となる数値を持つ

時間分析とは、各作業の所要時間を計測し、「標準時間」を設定する手法です。PTS法(Predetermined Time System:既定時間法)のような高度な手法もありますが、中小工場ではストップウォッチによる実績測定で十分です。

現場での使い方:1つの作業に対し、10回の計測を行います。そのうち最大値と最小値を除いた8回の平均値を「正味時間」とします。さらに余裕率(一般に10〜20%)を掛け合わせて標準時間を計算します。

標準時間(分) = 正味時間 × (1 + 余裕率)

この標準時間ができれば、生産計画の精度が格段に上がります。「タクトタイム=標準時間という訳ではない」点には注意が必要です。タクトタイムは顧客の要求納期から逆算される時間であり、標準時間は実際の作業能力を示すものです。

運搬分析 「運ぶ」はムダの最たるもの

大野耐一は「運搬はムダの最たるものである」と言いました。運搬分析では、工程間の運搬距離・頻度・方法を記録します。

現場での使い方:製造現場の平面図を用意し、人の動きを線で描いてみてください。「あちこち行ったり来たりしている」ラインが浮かび上がります。改善の目標は、この線を「一直線」に近づけることです。

稼働分析 設備と作業者の「見えない時間」を数値化

稼働分析は、「設備や作業者が実際にどれだけ動いているか」を統計的に把握する手法です。連続観測(ワークサンプリング)により、ランダムなタイミングで観測し、稼働率を推定します。

現場での使い方:スマートフォンのアラームをランダムな間隔(例えば20〜30分おき)で鳴らし、その瞬間に設備が動いているか止まっているかを記録するだけです。これを1日50回×5日間続ければ、設備稼働率の統計的に有意な推定値が得られます。

ラインバランス分析 流れを揃える

ラインバランス分析は、各工程の作業時間のバラツキを可視化し、ボトルネック工程を特定する手法です。

現場での使い方:各工程の作業時間を棒グラフにしてください。最も高い棒(ボトルネック)が全体の生産速度を決めます。改善の優先順位は、この最も高い棒から始めます。「どこを直せば効果が最大か」が一目で分かるのが、この分析の強みです。

ラインバランス効率(%)= 各工程の正味作業時間の合計 ÷ (ボトルネック工程時間 × 工程数) × 100

この数値が85%以上であれば「バランスが取れている」と言われます。70%を切っている場合は、大幅な見直しが必要です。

連合作業分析 人と機械の待ち合わせ

人と機械(または人と人)が共同で作業する工程において、どちらかに待ち時間が発生していないかを分析します。

現場での使い方:人と機械の動作を時系列で並べた「連合作業図」を作成します。よくあるパターンは、「機械が自動運転中に作業者がただ待っている」「作業者が忙しいのに機械が遊んでいる」というミスマッチです。理想は、人が作業している間に機械が動き、機械が動いている間に人が準備をするという「完全な分業状態」です。

まとめ まずは1つ、今週から始める

IEは100年前からある古典的な方法論ですが、その考え方は今も現場改善の基本です。7つ道具は、全てを同時に導入する必要はありません。まずは1週間、「工程分析」で現場の全体像を描いてみてください。それだけで今まで気づかなかったムダが、少なくとも3つは見つかるはずです。その1つを実際に改善してみる。その繰り返しが、やがて現場の底力を引き出します。

主な出典・参考

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