現場で「それ、車輪の再発明じゃない?」と言われることがあります。言葉の意味と、設備の設計や開発でどう関係するかを整理します。生産技術として装置を作る側から見ると、この言葉は単なる比喩ではなく、日々の設計判断に直結するテーマです。
車輪の再発明とは
英語の「reinventing the wheel」の訳です。既に存在して使えるもの(車輪)を、わざわざ一から作り直すことを意味します。ビジネスや開発の現場では「非効率な無駄」として、否定的に使われます。さらに「四角い車輪の再発明(reinventing the square wheel)」という言い方もあり、これは既存のものよりも役に立たないものを作ってしまうことを指します。車輪という単語がよく合うのは、丸いだけで完成している身近なものを例に出すことで、無駄が誰にでも伝わるからです。
設備に対してこの言葉がどう関係するか
設備の設計・開発では、次のような場面が「車輪の再発明」にあたります。
- 標準機や既存ユニットがあるのに、一から自作する
- 過去に自社で実績のある機構を、仕様を引き継がずに作り直す
- 市販の部品(センサ、モータ、コントローラ)で済むものを専用設計する
既にあるものを同じように作るデメリット
既製品や実績のあるものを、わざわざ同じように作り直すと、次のような不都合が生じます。
- コストと納期の増大(開発工数が無駄になる)
- 既知の不具合の再発(過去の知見が活かせない)
- 品質リスク(実績のない設計は未知数)
- 保守性の低下(部品や仕様がばらばらになり、メンテが難しくなる)
特に「保守性の低下」は後から効いてきます。同じ機能でもメーカーや仕様がバラバラだと、故障時の部品確保や修理手順の標準化ができなくなります。
ただし再発明が価値になる場合も
全部同じように作ることが悪なだけで、目的を持って作るなら意味があります。
- 既製品が存在しない、または要件が特殊すぎる
- コストや性能の壁を越える独自技術が必要
- 学習やノウハウ蓄積を目的とする
要は「なぜ既存では足りないのか」を説明できれば、それは再発明ではなく「必要な開発」です。
現場での向き合い方
標準や実績をまず探し、流用できるところは流用します。一から作る場合は「なぜ既存ではダメか」を明言します。これが車輪の再発明を避ける鉄則です。設備づくりは「新しいものを作ること」より「適切に組み合わせること」から始まります。
どうすれば防げるか
車輪の再発明は、実は誰でもやってしまうものです。筆者自身も「既にあることを知らなかった」「知っていたが安く作れると思った」という理由で、似たようなものを作ってしまった経験があります。原因は「情報不足」と「コスト判断の誤り」の2つに分けられ、対策もそれぞれ異なります。
作る前に探す:情報不足への対策です。設計を始める前に社内の過去図面や実績を検索し、流用できるところは流用します。市販品カタログで間に合う部品(センサ、モータ、コントローラ)は専用設計せずに選定します。部品の標準化と流用設計は、設計工数を減らすだけでなく保守性も高めます。
トータルコストで比較する:「安く作れる」は設計費と製作費だけで見たときの錯覚です。保守費や故障時の対応まで含めると、自作が割高になるケースがほとんどです。内製か購入かは、make or buy 分析の考え方でトータルコストを比較して決めます。
失敗とノウハウを探せる形で残す:過去の設計や失敗事例が誰にも検索できない状態では、同じ再発明を繰り返します。図面と見積、加工記録を紐づけて管理すると、次の設計者が過去の知見を使えます。近年はAIによる類似図面検索も普及し、形状から過去図面を探せるようになっています。
「なぜ既存ではダメか」を問う:最後の防衛線です。設計レビューでこの問いに答えられなければ、作らない判断をします。これが車輪の再発明を防ぐ最も確実な方法です。

