はじめに ステッピングとサーボ、どちらを選ぶべきか
「ステッピングモーターとサーボモーター、どっちを選べばいいの?」FA設備の設計で必ずぶつかるこの選択。筆者も初めて設備を設計したとき、価格が安いからとステッピングモーターを選んで、高速運転で脱調が止まらず泣く泣くサーボに変更した苦い経験があります。逆に、サーボで十分なのにオーバースペックでコストだけ跳ね上がったケースも見てきました。
本記事では、ステッピングモーターとサーボモーターの違いを、原理・トルク・速度・精度・制御・価格の6つの観点から詳しく比較します。
基本原理の違い
ステッピングモーターの原理 オープンループ制御
ステッピングモーターは、コイルに順番に電流を流すことで磁界を切り替え、ローター(回転子)を一定角度(ステップ角)ずつ回転させるモーターです。時計の秒針のように、決まった角度ずつ歩進(ステップ)します。
オリエンタルモーターの技術資料によると、2相モーターの基本ステップ角は1.8度(1回転=200パルス)、5相モーターは0.72度です。外部からのフィードバックがなくても、パルス数とステップ角だけで位置決めができる「オープンループ制御」が最大の特徴です。
ドライバのマイクロステップ駆動(1/2、1/4、1/8、1/16分割など)を使えば、さらに細かい分解能が得られます。ステップ角を細かくすることで減衰振動を低減でき、低速域での振動や騒音を抑えられます。
サーボモーターの原理 クローズドループ制御
サーボモーターは、内蔵されたエンコーダで現在位置を常に検出し、目標位置との誤差をフィードバック制御でゼロに追い込む「クローズドループ制御」が基本です。
三菱電機のMELSERVO-J5シリーズでは、エンコーダ分解能が26ビット(1回転あたり67,108,864パルス)に達します。これはステッピングモーターの200パルスとはけた違いの分解能です。また、速度周波数応答は3.5kHzで、高速・高精度なモーション制御に対応します。
この原理の違いが、両者のトルク特性、速度特性、精度、制御、価格のすべてに影響を与えます。
比較1 トルク特性
| 項目 | ステッピングモーター | サーボモーター |
|---|---|---|
| 停車時トルク(保持トルク) | 高い(通電時は最大トルクを維持) | ゼロ(非通電時は保持しない) |
| 回転中トルク | 低速で高いが、高速で急低下 | 広い速度域でほぼ一定 |
| トルクの安定性 | 回転数に応じて変動する | フィードバックで一定に保たれる |
| 過負荷耐性 | 弱い(脱調すると位置がずれる) | 強い(瞬間的に定格の約300%まで対応) |
ステッピングモーターは停止中に最大トルクを保持できるため、ワークを停止させたまま保持する用途(Z軸の重力補償など)に適しています。一方、回転中は高速域になるほどトルクが低下します。一般的に1,000rpm前後を超えるとトルクが急激に落ちます。
サーボモーターは定格回転数(一般的に3,000rpm程度)までほぼ一定トルクを維持でき、瞬間的には定格の約300%までトルクを出せます。障害物に当たった際の緊急停止など、過負荷がかかる場面でも脱調しないのが強みです。
比較2 速度特性と応答性
| 項目 | ステッピングモーター | サーボモーター |
|---|---|---|
| 最高回転数 | 1,000〜3,000rpm(機種による) | 3,000〜6,000rpm |
| 加速性能 | 穏やか(脱調防止のため徐々に加速) | 急峻(フィードバックで追従) |
| トルク変動 | 速度に応じて変動(特に低回転で共振) | 速度によらず一定 |
| 応答周波数 | 低い(数十Hz〜数百Hz) | 高い(サーボは速度応答3.5kHz) |
| 振動 | 低回転域で共振が発生しやすい | 少ない(制御で抑制) |
筆者が実際に困ったのは、ステッピングモーターの予期せぬ脱調です。ある設備でコンベアの送り速度を上げたところ、モーターが高速域で脱調して位置が大きくずれ、ワークを破損させてしまいました。脱調に気づくのに時間がかかり、その後の対策(加速時間の調整とトルクマージンの増加)に追われました。この経験から、高速運転が必要な軸には必ずサーボモーターを選ぶようにしています。
比較3 位置決め精度と分解能
| 項目 | ステッピングモーター | サーボモーター |
|---|---|---|
| 基本分解能 | 1.8度/パルス(2相、200パルス/回転) | 26ビット(約6,700万パルス/回転) |
| マイクロステップ時 | 1/16分割で0.1125度/パルス | 不要(エンコーダ分解能で十分) |
| 位置精度 | オープンループのため理論上誤差なし | エンコーダの精度に依存 |
| 脱調のリスク | あり(エラー検出機能なし) | なし(位置偏差監視で異常検知) |
| 停止精度 | ±0.05度以内(無負荷時、メーカー資料) | エンコーダ分解能に依存(極めて高精度) |
分解能だけ見ればサーボモーターに軍配が上がりますが、実用的な位置決め精度は機械系(ボールねじやリニアガイドの精度)で決まる部分が大きく、ステッピングモーターでも十分な精度が出せるケースは多いです。ただし、微細な位置決めや低速度での円滑な動作が必要な場合は、サーボモーターの方が圧倒的に有利です。
比較4 制御方式と配線の違い
ステッピングモーターの制御
- PLCやコントローラからパルス列を直接出力するだけで動作する
- ゲイン調整が不要(初心者でも動かせる)
- 配線はパルス+方向の2系統(PUL+DIR)
- ドライバの設定は電流値とマイクロステップ設定程度
サーボモーターの制御
- PLCからパルス指令を出すか、専用モーションコントローラを使用
- ゲイン調整(位置ループ、速度ループ、電流ループ)が必要
- エンコーダケーブルを含めると配線本数が多い
- パラメータ設定が複雑だが、自動調整機能が充実
ステッピングモーターの最大のメリットは「とりあえず動く」ことです。筆者が初めて設計した設備も、ステッピングモーター+PLCのパルス出力だけで動作確認ができました。
一方、サーボモーターは起動時のゲイン調整に手間がかかる印象ですが、最近のサーボドライバは調整機能が大幅に進化しています。三菱電機のMR-J5シリーズには「クイックチューニング」機能があり、約0.3秒で自動加振して制御ゲインや機械共振抑制フィルタを自動調整します。さらにオートチューニング、ワンタッチ調整、アドバンスト制振制御IIなど、振動を抑える機能も標準搭載されています。
比較5 価格とコストパフォーマンス
一般的に、ステッピングモーターはサーボモーターより大幅に安価です。モーターとドライバを合わせたシステムコストで、ステッピングはサーボの半額以下になることが多いと言われています。同じ出力クラス(40W程度)で比較すると、価格差は明確です。
| 項目 | ステッピングモーター | サーボモーター |
|---|---|---|
| モーター単価(小容量クラス) | 安価(数千円台) | 高価(数万円台) |
| ドライバ単価 | 安価 | 高価(モーターと同等以上) |
| 制御機器 | 標準PLCでOK | パルス出力PLCまたはモーションコントローラ |
| ランニングコスト | 低い(発熱は多め) | 中程度(高効率で発熱少ない) |
ただし、コストは初期費用だけで判断できません。設備停止による損失を考えると、サーボモーターの方がトータルコストで有利になるケースもあります。高速・高負荷・高頻度の動作が必要な軸では、ステッピングの脱調による停止損失の方が高くつく可能性があります。
使い分けの判断フローチャート
現場で実際に選ぶ際の判断基準をまとめました。
- 停止中の保持トルクが必要? → はい:ステッピングモーターが有利(保持トルクが大きい)
- 高速回転(2,000rpm以上)が必要? → はい:サーボモーター一択
- 急加速・急減速が必要? → はい:サーボモーター(ステッピングは脱調リスク)
- 負荷変動が大きい? → はい:サーボモーター(変動に追従)
- 予算が限られている? → はい:ステッピングモーター(特に試作機なら)
- 制御が簡単な方がいい? → はい:ステッピングモーター(ゲイン調整不要)
筆者の経験則としては、「小規模・低コスト・中低速」の設備はステッピングモーター、「高速・高精度・信頼性重視」の設備はサーボモーターと決めています。また、最近は「クローズドループステッピングモーター」という中間製品もあり、コストと信頼性のバランスを取る選択肢として有力です(後述)。
現場でよくある失敗パターン
失敗1 ステッピングモーターの脱調に気づかない
ステッピングモーターは脱調してもエラー出力を出さないため、気づかないうちに位置がずれていることがあります。特に夜間の無人運転や、負荷変動が大きい工程では要注意です。クローズドループステッピングやエンコーダ付きモデルを選ぶことで、脱調を検出できます。
失敗2 サーボモーターのゲイン調整を怠る
サーボモーターはゲイン設定が不適切だと、発振(ハンチング)や整定時間の遅れが発生します。最近のドライバは自動調整機能が充実しているので、必ずオートチューニングを実行してから運用を開始しましょう。
失敗3 ステッピングモーターの共振点を無視
ステッピングモーターは特定の低回転域で共振が発生しやすく、振動や騒音が大きくなります。共振点を避ける速度設定にするか、マイクロステップ駆動で振動を低減しましょう。
失敗4 トルクマージンを取らずに選定した
負荷トルクに対してギリギリの選定をすると、温度上昇や摩耗でトルクが落ちたときに脱調します。トルクマージンは30〜50%程度取るのが安全です。
最近のトレンド クローズドループステッピングモーター
ステッピングモーターの安さと、サーボモーターの信頼性を両立させたのが「クローズドループステッピングモーター」です(オリエンタルモーターのαステップなど)。エンコーダを内蔵し、脱調を検出・補正できるため、ステッピングの弱点だった「脱調に気づかない」問題を解決します。
価格は通常のステッピングより高いものの、サーボよりは安価です。中速域までの用途で「信頼性も欲しいがコストも抑えたい」という場合は、有力な選択肢になります。
まとめ
ステッピングモーターとサーボモーターには、原理から使い方まで明確な違いがあります。選定のポイントは以下の通りです。
- ステッピング:中低速・単純動作・低コスト・停止保持が必要な用途
- サーボ:高速・高精度・急加減速・負荷変動が大きい・信頼性重視の用途
- クローズドループステッピング:その中間(コストと信頼性のバランス)
最初に「どの速度域で、どの精度が必要か」を決めることが、正しい選定の第一歩です。安さだけで選ぶと、結果的に高くつくこともあります。


コメント