生産能力とは何か
生産能力(キャパシティ)とは、「一定期間に、ある設備や工程で生産できる最大の製品数」を指します。簡単に言えば「この工場(ライン)は、1日に最大いくつ作れるのか」という数字です。
この数字を正しく把握していないと、以下のような問題が発生します:
- 納期に間に合わない受注を取ってしまう(過積載)
- 設備や人員に余剰が出ているのに気づかない(過少生産)
- 改善施策の効果を正しく評価できない
生産能力の基本計算式
生産能力の基本計算式は以下の通りです:
生産能力 = (稼働時間 ÷ タクトタイム) × 稼働率
タクトタイムとは
タクトタイムとは、「1個の製品を生産するのに必要な時間」です。ドイツ語の「Takt(拍子・リズム)」が語源で、生産ラインの「鼓動」を表します。
例:1個あたり30秒で生産できるラインの場合、タクトタイム = 30秒
計算例:1日の生産能力
条件:
- 1日の稼働時間:8時間(28,800秒)
- タクトタイム:30秒/個
- 稼働率:85%(= 0.85)
生産能力 = (28,800秒 ÷ 30秒)× 0.85 = 816個/日
つまり、理論上は960個作れる設備でも、実際には816個が現実的な生産能力ということになります。
稼働率の考え方
稼働率は「設備が実際に稼働していた時間の割合」です。多くの人が「稼働率」と「可動率」を混同しているので、まずはこの2つを正しく区別しましょう。
稼働率 vs 可動率
| 指標 | 定義 | 計算式 |
|---|---|---|
| 稼働率 | 設備が「運転していた」時間の割合 (計画停止も含む実稼働時間ベース) |
実稼働時間 ÷ 暦時間 |
| 可動率 | 設備が「動こうと思えば動けた」時間の割合 (計画停止を除く) |
実稼働時間 ÷ (暦時間 − 計画停止時間) |
現場で使うべきは「可動率」です。可動率は「設備が健康であるかどうか」を表す指標であり、改善活動で追いかけるべき数字です。
稼働率を低下させる要因
- 設備故障:突発的な機械トラブル
- 段取り替え:製品切り替え時の型交換・調整
- 材料待ち:前工程からの部品供給遅れ
- チョコ停:小さな停止(センサー誤動作、ワーク詰まりなど)
- 計画停止:定期メンテナンス、休憩、清掃
直行率(歩留まり・良品率)の考え方
直行率(First Pass Yield, FPY)とは、「最初の工程から最終工程まで、手直しや修正なしで一発合格した製品の割合」です。
直行率 = 良品数 ÷ 総生産数 × 100(%)
なぜ直行率が重要なのか
直行率が低いと、以下の影響が連鎖的に発生します:
- 生産能力が目減りする:不良品を作った分だけ、本来の生産能力が使えない
- 再加工の工数が発生する:不良品を直すための追加工数と時間
- 材料費のロス:不良品に使った原材料は無駄になる
- 納期遅れのリスク:再加工分を本生産に割り込ませると全体のスケジュールが狂う
直行率を考慮した実効生産能力
直行率を加味すると、真の生産能力は以下の式で表せます:
実効生産能力 = 理論生産能力 × 稼働率 × 直行率
例:理論960個/日、稼働率85%、直行率95%の場合
実効生産能力 = 960 × 0.85 × 0.95 = 775個/日
最初の理論値960個から、実際に市場に出せる製品は775個しかないという現実がわかります。
OEE(設備総合効率)で全体を把握する
生産能力をより正確に把握するには、OEE(Overall Equipment Effectiveness)という指標が便利です。OEEは以下の3要素の掛け算で計算します:
OEE = 時間稼働率 × 性能稼働率 × 良品率
| 要素 | 意味 | 計算式 | 損失要因 |
|---|---|---|---|
| 時間稼働率 | 設備が動いていた時間の割合 | 稼働時間 ÷ 負荷時間 | 故障・段取り・調整 |
| 性能稼働率 | 設定速度に対して実際の速度 | (処理個数×サイクルタイム)÷ 稼働時間 | チョコ停・速度低下 |
| 良品率 | 合格品の割合 | 良品数 ÷ 総処理数 | 不良・手直し |
OEEの目安
| OEE値 | 評価 | 説明 |
|---|---|---|
| 85%以上 | ワールドクラス | 世界最高水準の生産効率 |
| 70〜85% | 良好 | 一般的な優良工場レベル |
| 50〜70% | 改善余地あり | 多くの現場がこの範囲。改善のチャンス |
| 50%未満 | 要抜本的改善 | 大きな損失が出ている状態 |
補足: この85%「ワールドクラス」基準は、中島清一氏(TPM=Total Productive Maintenance:総合生産保全の生みの親)が1970〜80年代に日本プラントメンテナンス協会(JIPM)で、当時の優良機械加工工場の実績データから提唱したものです。ISO 22400やSEMI規格(E10/E79)ではOEEの計算式は標準化されていますが、「85% = ワールドクラス」という数値自体がISOなどの国際規格として定められたものではありません。業界や工程によって適切な目標値は異なるため、あくまで参考値として捉えてください。
実践:自社の生産能力を計算する手順
Step 1:タクトタイムを測定する
ストップウォッチで実際の1サイクル時間を測定します。理想値ではなく、実際の現場の値を使うことが重要です。10回以上測定して平均を取ります。
Step 2:1日の正味稼働時間を計算する
勤務時間から休憩・朝礼・清掃などの計画停止時間を差し引きます。
例:8時間勤務 − 休憩45分 − 朝礼10分 − 片付け10分 = 6時間55分 = 約6.9時間
Step 3:可動率(または時間稼働率)を算出する
過去1ヶ月の稼働データから、設備が停止していた時間を集計します。
可動率 =(総稼働時間 − 停止時間)÷ 総稼働時間 × 100
Step 4:直行率(良品率)を算出する
当月の総生産数と良品数から計算します。
直行率 = 良品数 ÷ 総生産数 × 100
Step 5:実効生産能力を算出する
1日あたり実効生産能力 =(正味稼働時間 ÷ タクトタイム)× 可動率 × 直行率
Step 6:余裕率を設定する
急なトラブルや緊急対応を見越して、計算値に対して10〜20%の余裕(バッファ)を設定するのが一般的です。
計画生産能力 = 実効生産能力 × (1 − 余裕率)
まとめ:生産能力計算の全体像
生産能力の計算を一言でまとめると:
「1日に何個作れるか」= 「1日何秒あるか ÷ 1個に何秒かかるか」× 「ロス率」
生産能力を正しく把握するには、以下の3つを押さえましょう:
- タクトタイム(1個作るのにかかる時間)を正確に測る
- 稼働率(可動率)で停止時間を考慮する
- 直行率(良品率)で不良の影響を加味する
まずは1つの工程でいいので、実際のデータに基づいて生産能力を計算してみてください。現状の「見える化」が改善の第一歩です。
出典
- Tractian “What Is World Class OEE?” — https://tractian.com/en/blog/world-class-oee
- OEE Academy “Is 85% OEE World Class?” — https://oee.academy/oee-academy/oee-and-continuous-improvement/85-percent-oee-world-class-or-not/
- Reliamag “OEE Benchmarks by Industry” — https://reliamag.com/guides/oee-benchmarks-by-industry-what-world-class-really-means/


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