「Oリングを選びたいけど、ショアA70ってどれくらいの硬さ?」「パッキンの材質を決めたいけど、ショアAとショアDの違いがわからない」ゴム製品の硬さを表す「ショア硬度」。製造現場では日常的に使われる用語ですが、測定方法や数値の意味を正確に理解している人は意外と少ないものです。筆者も初めてゴム材料を選定したとき、ショアAとショアDの違いがわからず、間違った硬さのOリングを発注してしまい、納期に間に合わなかった苦い経験があります。
本記事では、ショア硬度(デュロメータ硬さ)の基礎から、ショアAとショアDの違い、測定方法の原理、現場でよく使われる材料の硬さ目安、そして実際のメーカー製品を例にした選定フローまでを解説します。ゴム材料選定で失敗しないためのノウハウを、実務ベースでまとめました。
ショア硬度(デュロメータ硬さ)とは
ショア硬度とは、ゴムやエラストマー、軟質プラスチックの硬さを測定するための規格で、押し込み硬さの一種です。規定の形状をした圧子(インデンタ)を試験片に押し込み、その押し込み深さ(正確には反発の度合い)を0〜100の数値で表します。
数値が大きいほど硬い材料ということになります。例えば、輪ゴムはショアA40程度、自動車のタイヤはショアA70前後、硬質プラスチックはショアD80以上という具合です。
ショアAとショアDの違い
ショア硬度にはいくつかのスケールがありますが、現場で最もよく使われるのは「ショアA(Shore A)」と「ショアD(Shore D)」の2つです。
| 項目 | ショアA | ショアD |
|---|---|---|
| 対象材料 | 軟質ゴム、エラストマー | 硬質ゴム、半硬質プラスチック |
| 圧子形状 | 円錐台(先端径0.79mm) | 円錐形(先端R0.1mm、角度30度) |
| スプリング力 | 弱い(822g) | 強い(4536g) |
| 測定範囲 | 0〜100(実用的には20〜90) | 0〜100(実用的には20〜90) |
| 相当JIS規格 | JIS K6253-3 | JIS K6253-4 |
| 相当ISO規格 | ISO 48-4 | ISO 48-4 |
簡単な見分け方として、消しゴム程度の硬さまではショアA、それより硬いもの(硬質プラスチックなど)はショアDで測定します。測定値がショアAで90を超える場合はショアDでの測定が適切で、逆にショアDで20未満の場合はショアAでの測定が適切です。
測定方法と手順(JIS K6253準拠)
JIS K6253(加硫ゴムおよび熱可塑性ゴムの硬さ試験方法)に基づく測定手順を解説します。
必要な機器
- デュロメータ(硬さ計):ショアA用またはショアD用
- 試験片:厚さ6mm以上、幅10mm×10mm以上。積層可能(2枚まで)
- 定盤:試験片を置くための平坦な台
- タイマー:測定時間の計測用
実在メーカー型番例:
- 高分子計器 デュロメータ A型:GS-719N(ショアA用、標準品)
- 高分子計器 デュロメータ D型:GS-720N(ショアD用)
- 田中式 デュロメータ:ASKER-A型(国内で広く使われる)
- ZwickRoell デュロマー:3140シリーズ(自動化測定機)
測定手順
- 試験片を23度±2度の環境で3時間以上調節する(温度による硬度変化を防ぐ)
- 試験片を定盤上に置く
- デュロメータの圧子を試験片に垂直に押し当てる
- 加圧力を均一にかけ、圧子と試験片が十分に接触してから測定値を読む
- 規定時間(通常3秒または15秒)後の値を記録する
- 5箇所以上測定し、平均値を求める
コツとしては、手動のデュロメータは押し当てる速度と力に個人差が出やすいため、デュロメータスタンド(高分子計器 GS-620など)を使用すると再現性が格段に向上します。
ショア硬度の数値目安と現場で使われる材料
現場でよく使われるゴム材料とそのショア硬度の目安をまとめました。
| 材料名 | ショア硬度 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| シリコーンゴム | A30〜A70 | Oリング、ガスケット、絶縁材 | 耐熱性(-60〜+230度)に優れる |
| NBR(ニトリルゴム) | A40〜A90 | オイルシール、Oリング、パッキン | 耐油性に優れる。最も一般的 |
| フッ素ゴム(FKM) | A60〜A90 | Oリング、耐薬品パッキン | 耐熱・耐薬品性が最高クラス |
| ウレタンゴム | A60〜D60 | ロール、パッド、シート | 耐摩耗性が非常に高い |
| EPDM(エチレンプロピレンゴム) | A40〜A80 | パッキン、ホース、ウェザーストリップ | 耐候性・耐オゾン性に優れる |
| クロロプレンゴム(CR) | A40〜A80 | ベルト、パッキン | バランスの良い物性 |
| ポリウレタン(硬質) | D50〜D80 | 治具、パレット、ロール | 耐摩耗性と剛性を両立 |
実践:Oリング選定を例にしたゴム材料の選び方
実際のOリング選定を例に、ショア硬度を含めた材料選定の手順を示します。OリングはJIS B 2401で規格化されており、材料は硬さと種類で指定します。
ステップ1:使用環境を確認する
- 使用温度範囲(低温〜高温)
- 接触する流体(油、水、薬品、ガス)
- 圧力(静圧用、動圧用)
- 摺動の有無(固定用か、ピストン用か)
ステップ2:材料を選ぶ
- 耐油性が必要 → NBR(ニトリルゴム)が基本
- 高温(150度以上)or 耐薬品 → FKM(フッ素ゴム)
- 低温環境(-30度以下) → シリコーンゴム
- 耐候性重視 → EPDM
ステップ3:硬さ(ショア硬度)を選ぶ
- 一般のOリング:ショアA70(最も普及している)
- 低圧シール用(柔らかく密着させたい):ショアA50〜60
- 高圧シール用(押出し防止):ショアA80〜90
- 摺動用(摩擦低減):ショアA70〜80
ステップ4:メーカー型番を決める
実在するOリングの型番例:
- NOK Oリング(JIS B 2401準拠):NBR-70-1 P4(NBR、ショアA70、JIS Pサイズ4)
- NOK Oリング(高圧用):NBR-90-1 P14(NBR、ショアA90、高圧シール向け)
- NOK Oリング(フッ素ゴム):FKM-70-1 P10(フッ素ゴム、ショアA70)
- ミスミ NBR-Oリング:ORING-NBR70-25(NBR70度、内径25mm)
- ミスミ シリコーンOリング:ORING-SI70-20(シリコーン、ショアA70)
Oリングの溝設計も重要で、「Oリングの断面直径の15〜25%をつぶす」のが一般的な設計ルールです。硬い材料(ショアA80以上)ではつぶし率を小さめに、柔らかい材料(ショアA50以下)では大きめに設定します。
ショア硬度と他の硬さ指標との比較
現場では「ショアA70はロックウェルRでいくつ?」といった質問もよく聞かれます。ただし、ショア硬度と他の硬さ試験(ロックウェル、ビッカース、デュロメータ国際ゴム硬さIRHD)の間には直接的な換算式はありません。あくまで参考値として捉えるべきです。
| ショアA | ショアD | IRHD | 目安(日常品) |
|---|---|---|---|
| 30 | ― | 30 | 輪ゴム程度 |
| 50 | ― | 50 | 消しゴム |
| 70 | ― | 70 | 自動車タイヤ、一般Oリング |
| 90 | 40 | 90 | 硬質ゴム、靴底 |
| ― | 60 | ― | プラスチック定規 |
| ― | 80 | ― | 硬質PVC、アクリル |
ショアAとショアDには簡易的な換算表がJIS K6253の附属書に掲載されていますが、あくまで参考値であり、実際の測定値は直接計って確認するのが確実です。
現場でよくある失敗パターン
失敗1:ショアAとショアDを間違えて発注
カタログの硬度表記が「ショアA70」なのか「ショアD70」なのかを確認せずに発注してしまい、届いた部品が全く異なる硬さだったケース。ショアD70はショアA換算で100を超える硬さに相当し、全くの別物になります。発注前には必ず「AかDか」を確認する習慣をつけましょう。特に海外製品はショア硬度で表記されることが多く、AとDの区別が曖昧なカタログもあるため注意が必要です。
失敗2:温度による硬度変化を考慮していない
ゴムの硬度は温度によって変化します。一般的に温度が10度上昇するとショアAで2〜5程度柔らかくなります。常温でショアA70のNBRでも、60度の環境ではショアA60程度まで低下することがあります。高温環境で使用する場合は、高温時の硬度を確認してから選定してください。
失敗3:経年変化(劣化)を考慮していない
ゴム材料は経年で硬化します。特にNBRは熱や油の影響で徐々に硬くなり、3〜5年でショアAが5〜10程度上昇します。Oリングなどシール部品で硬化が進むと、シール性が低下し漏れの原因になります。長期使用を前提とした設計では、初期硬度を意図的に低め(ショアA60〜65程度)に設定するのも一つの方法です。
失敗4:手測定のばらつきを無視
手持ちのデュロメータで測定した値が、サプライヤの検査値と5〜10も違っていた、というケース。手測定は押し当てる速度や力、測定者の個人差で値が変わります。社内で受け入れ検査をする際は、必ずスタンド式のデュロメータを使用し、測定環境(温度)を規定して管理することをおすすめします。
まとめ
ショア硬度はゴム材料選定の基本中の基本ですが、正しく理解して使えている人は少ないのが現状です。本記事で解説したポイントを押さえておけば、Oリングやパッキンの選定で失敗する確率は大幅に減らせます。
- ショアAは軟質ゴム用、ショアDは硬質ゴム・プラスチック用
- 測定はJIS K6253に従い、スタンド使用で再現性を確保
- 温度と経年変化を考慮した硬度選定を
- AとDの区別を必ず確認してから発注


コメント