静電気はどうやって発生するのか
静電気は、異なる物質同士が接触した後、引き離されることで発生します。
物質の表面では電子の飛び出しやすさ(帯電列)が物質ごとに異なります。2つの物質が接触すると、どちらか一方から他方へ電子が移動します。接触後に引き離されると、電子の移動した分だけ電荷の偏り(帯電)が残ります。これが静電気です。
「摩擦帯電」と言いますが、摩擦は接触面積を増やしているだけで、本質は接触と分離です。擦らなくても、接触させて離すだけで帯電します。
工場で静電気が発生しやすい場面:
- プラスチック製品がベルトコンベア上を滑る(接触+分離の繰り返し)
- 作業者が合成繊維の服を着たまま作業する(衣類同士の摩擦)
- 粉体や液体が配管内を高速で流れる(流動帯電)
- 床を歩くだけで靴と床材が接触・分離を繰り返す(歩行帯電)
- ラベル剥離やフィルム剥離(剥離帯電。非常に高電圧になりやすい)
冬場に静電気が特にひどくなるのは、空気が乾燥して湿度が40%以下になると表面抵抗が上がり、帯電した電荷が逃げにくくなるからです。湿度60%以上では表面に薄い水分膜ができ、電荷がゆっくり逃げるため帯電しにくくなります。
工場の生産現場において、静電気は単なる「冬場のバチッ」ではありません。電子部品の破壊、粉じん爆発、制御機器の誤動作、製品への埃付着など、生産ラインに深刻な被害をもたらします。
特に基板生産工場では、数十Vの静電気でも半導体が破壊されることがあり、静電気対策は必須です。
静電気対策の基本:3つの原則
静電気対策には以下の3つのアプローチがあります:
- 発生を抑える(帯電防止):摩擦帯電を減らす材料の選定、湿度管理
- 逃がす(除電):アースに逃がす、イオナイザで中和する
- 遮断する(シールド):静電気の影響を受けないように保護する
この中で最も基本的かつ効果的な対策が「アースに逃がす」です。
アース接地は有効か?
はい、最も有効です。 静電気対策の基本は、帯電した物体とアース(大地)を電気的に接続し、電位差をゼロにすることです。
しかし、アース接地には「抵抗値」が重要です。単に「繋いである」だけでは不十分で、適切な抵抗値で接地されていることが必須です。
アースが浮いているとどうなるか
「アースが浮いている」とは、アース線が機器に接続されているように見えて、実際には大地との導通が取れていない状態を指します。
この状態で起きること:
- 静電気が逃げ場を失う:マットやリストストラップが機能しない
- 逆に危険:浮いたアース線がアンテナの役割を果たし、外部ノイズを機器に引き込む
- 静電気が製品に放電:アースに逃げなかった静電気が、製品や作業者に放電される
- 測定しても「正しい値」が出ない:対策の効果測定ができない
アース接地の確認方法
テスター(抵抗レンジ)を使って、アース端子と実際の接地極(金属水道管や専用アース棒)の間の抵抗を測定します。
- 良:10Ω以下(専用アース)
- 可:100Ω以下(共用アース)
- 不良:100Ω以上(接触不良の可能性)
- 浮いている:無限大(導通なし)
静電気の測定方法と数値の読み方
必要な測定器
- 表面抵抗計:マットや床材の表面抵抗値を測定
- 対地抵抗計:アースへの導通抵抗を測定
- 静電電位測定器(静電電界計):物体の帯電電圧を非接触で測定
- リストストラップテスタ:作業者のリストストラップの導通確認
抵抗値の読み方と基準
静電気対策では「抵抗値が低ければ低いほど良い」わけではありません。
理由:抵抗値が低すぎると(10^3Ω以下)、帯電していた電荷が急激に放電され、かえって電子部品を破壊する「急峻放電」が発生するリスクがあります。
| 区分 | 表面抵抗値 | 用途 |
|---|---|---|
| 導電性(Conductive) | 10^3 〜 10^6 Ω(1k〜1MΩ) | 作業台マット、床材、工具のアース |
| 静電拡散性(Static Dissipative) | 10^6 〜 10^9 Ω(1M〜1GΩ) | 基板作業に最適。ゆっくり放電する |
| 帯電防止(Antistatic) | 10^9 〜 10^11 Ω(1G〜100GΩ) | 人の衣類、梱包材。帯電を防ぐレベル |
| 絶縁性(Insulative) | 10^11 Ω以上 | 静電気対策に非対応。通常のプラスチックなど |
基板生産の場合、10^6〜10^9 Ω(静電拡散性)が最も推奨されます。電荷をゆっくり逃がし、急峻放電を防ぎます。
静電マットと導電性マットの違い
| 項目 | 静電マット(静電拡散性) | 導電性マット |
|---|---|---|
| 表面抵抗値 | 10^6〜10^9 Ω(中程度) | 10^3〜10^6 Ω(低い) |
| 電荷の逃がし方 | ゆっくり放電(安全) | 急速放電(急峻放電のリスクあり) |
| 色 | 緑/青/グレーが多い | 黒が多い(カーボン配合) |
| 価格 | やや高い | 比較的安い |
| 基板作業向き | ◎ 最適 | △ 急峻放電に注意 |
| 溶接・火花対策 | △ やや不向き | ◎ 最適 |
抵抗値は高いほうがいいのか?
適切な範囲があります。
- 低すぎる(10^3Ω以下):急峻放電で部品破壊のリスク。むき出しの金属テーブルと同じ
- 高すぎる(10^9Ω以上):静電気が十分に逃げきれず、帯電が残る
- 適正(10^6〜10^9Ω):ゆっくり安全に放電される
つまり、「抵抗値は高すぎても低すぎてもダメ」で、10^6〜10^9Ωの範囲が理想的です。
基板生産における静電気対策は必須か?
必須です。
現代の電子部品(特にCMOS-ICやMOSFET)は、人体に感じない数十Vの静電気でも破壊されるものがあります。
| 部品の種類 | 破壊される電圧(目安) |
|---|---|
| MOSFET(パワー系) | 50〜200V |
| CMOS-IC(ロジック) | 200〜500V |
| オペアンプ | 300〜1,000V |
| 抵抗・コンデンサ(一般) | 数千V以上(比較的強い) |
人間が静電気を「バチッ」と感じるのは約3,000V以上です。つまり、感じないレベルの静電気でもICは死んでいる可能性があります。
実践!工場の静電気対策チェックリスト
作業者の対策
- [ ] リストストラップ(手首アース)を正しく装着しているか
- [ ] リストストラップの導通を毎日確認しているか
- [ ] 作業者は静電気対策靴(ESDシューズ)を履いているか
- [ ] 静電気対策服(帯電防止加工)を着用しているか
作業環境の対策
- [ ] 作業台に静電拡散性マット(10^6〜10^9Ω)を敷いているか
- [ ] マットが確実にアースに接続されているか
- [ ] 床材は導電性/静電拡散性か(ESDフロア)
- [ ] 椅子も静電気対策品か(ESDチェア)
- [ ] イオナイザ(除電装置)が必要なエリアに設置されているか
- [ ] 湿度が40〜60%に保たれているか(乾燥は静電気の大敵)
測定・管理
- [ ] アースの対地抵抗を半年に1回以上測定しているか
- [ ] 静電マットの表面抵抗を年に1回以上測定しているか
- [ ] リストストラップテスタで日次点検しているか
- [ ] 測定値の記録を残しているか
静電気対策の設備と価格目安
| 対策品 | 価格帯 | 備考 |
|---|---|---|
| 静電拡散性マット(600x900mm) | 3,000〜8,000円 | アースコード別売り |
| 導電性マット(600x900mm) | 2,000〜5,000円 | カーボン系。安価 |
| リストストラップ(金属タイプ) | 500〜2,000円 | 導通確認も忘れずに |
| ESDシューズ | 3,000〜10,000円 | カカトの抵抗値が基準内か確認 |
| イオナイザ(卓上型) | 30,000〜100,000円 | 基板実装ラインでは必須級 |
| 表面抵抗計 | 10,000〜50,000円 | 年に1回の測定用 |
| アース線・アクセサリ | 500〜3,000円 | マットとアースをつなぐ |
まとめ
- 静電気対策で最も重要なのは適切な抵抗値でアースに逃がすこと
- アースが浮いていると対策効果ゼロどころか逆効果
- 抵抗値は「低すぎても高すぎてもダメ」。基板生産なら10^6〜10^9Ω(静電拡散性)が最適
- 静電マット(静電拡散性)vs 導電性マットの違いは抵抗値と電荷の逃がし方。基板作業には静電拡散性マットが適している
- 基板生産における静電気対策は必須。数十VでもICは破壊される
- 対策の効果を確認するには定期測定(抵抗値・アース導通)が不可欠


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