はじめに 「工場は有線が基本」は過去の話になりつつある
「工場のネットワークは有線LAN(Ethernet)が基本。無線は信頼性が低いから使えない」というのは10年前の常識です。2026年現在、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)やWi-Fi 6Eの登場により、工場の無線LANは実用的な信頼性とセキュリティを確保できる水準に達しています。多くの工場で、AGVの制御、タブレット端末、IoTセンサーのデータ収集に無線LANが使われています。
一方で、工場への無線LAN導入を検討する際には、「精密機械が誤動作するのでは?」「工場内にはいろいろな機器があってWi-Fiがつながらないのでは?」という懸念の声を聞きます。本記事では、これらの疑問に答えながら、工場で使える無線LAN規格と導入のポイントを解説します。
工場で使える主な無線規格
| 規格 | 周波数帯 | 最大速度 | 特徴 | 工場向き? |
|---|---|---|---|---|
| Wi-Fi 6(802.11ax) | 2.4GHz / 5GHz | 9.6Gbps | 多台数同時接続に強い。混雑時の安定性が向上 | ◎ 最も推奨 |
| Wi-Fi 6E(802.11ax) | 6GHz追加 | 9.6Gbps | 6GHz帯が使える。工場内の電波干渉を回避 | ◎ 新設なら最良 |
| Wi-Fi 5(802.11ac) | 5GHz | 3.5Gbps | まだまだ現役。コスト重視ならこれで十分 | 〇 実績十分 |
| 920MHz帯無線 | 920MHz | 100kbps〜 | 低速だが障害物に強い。省電力。IoTセンサー向け | 〇 センサー用 |
| Bluetooth 5.x | 2.4GHz | 2Mbps | 近距離・低消費電力。センサーやビーコン向け | △ 補助的に |
工場無線LAN導入のメリット
- 配線工事が不要:有線LANの敷設は1箇所あたり数万円かかる。無線ならそのコストがゼロ
- 設備のレイアウト変更に柔軟:ライン変更時にネットワーク配線を引き直す必要がない
- タブレットやモバイル機器が使える:現場で作業手順書を参照、検査結果をその場で入力
- AGV/AMRの制御に必須:無人搬送車は無線通信で走行指令を受ける
- IoTセンサーの増設が容易:ケーブルを気にせずセンサーを追加できる
「精密機械が誤動作するのでは?」という誤解
工場に無線LANを導入するとき、「電波で精密機械が誤動作するのでは?」と心配する人がいます。これは、飛行機で携帯電話が禁止されていた理由と似た発想です。
飛行機で携帯電話が禁止されていた理由
かつて飛行機では、携帯電話の電波が航空機の計器類に干渉して誤動作させる「可能性がある」という懸念から、使用が全面禁止されていました。2007年に国土交通省が告示で使用を禁止し、「飛行機では携帯電話の電源をお切りください」というアナウンスが定番になったのです。
しかし、その後の調査・研究により、携帯電話の電波が航空機の計器に悪影響を与えることは証明されませんでした。2014年9月、国土交通省は告示を改定して制限を緩和し、現在は機内モードに設定すれば離着陸時を含めて常時利用できるようになっています。
工場でも同じ誤解が起きている
工場でも同じ発想で「精密な機械が誤動作するのでは?」と心配する人がいます。しかし、そもそもスマートフォンは誰もがポケットに入れて工場内を歩き回っています。製造ラインのそばをスマホを持って通過しても機械が誤動作しないことは、毎日実証されているのです。
電波で機械が誤動作するという考えは、この点で既に成立していません。無線LANの電波(Wi-Fi)は免許不要の微弱な電波で、飛行機の計器にも影響しないことが確認されている出力です。
工場内でWi-Fiがつながらない懸念 電波干渉の実態
誤動作の心配は不要ですが、「工場内ではWi-Fiがうまくつながらない」という懸念は現実の問題です。工場はWi-Fiにとって厳しい環境で、電波の「干渉」が発生しやすいのです。
金属反射・遮蔽物によるマルチパス
工場内には金属設備、機械、ラック、配管などが多く、金属は電波を反射しやすい特性があります。反射した電波が複数の経路で届く「マルチパス」現象により、通信が乱れることがあります。
インバータ・モーター・溶接機の電気ノイズ
工場内に設置されているインバータ機器、モーター、溶接設備などは電気的ノイズを発生させやすく、Wi-Fiの通信品質を不安定化させるケースがあります。
2.4GHz帯の混雑
2.4GHz帯はWi-Fiだけでなく、Bluetooth機器、電子レンジ、コードレス電話など多くの機器が使う「共通道路」です。休憩室の電子レンジが近くにあると通信が不安定になることがあります。隣接する工場やオフィスのWi-Fiとのチャンネル競合も発生します。
AGV・移動体の瞬断
AGV(無人搬送車)やフォークリフトなどの移動体は、アクセスポイント(AP)の切り替えが頻繁に発生します。電波が弱い地点や切り替え設計が不十分だと、通信が瞬間的に途切れることがあります。
干渉を避けるための設計手順
これらの干渉問題は、適切な設計で解決できます。
- 導入前に電波調査(サイトサーベイ)を実施する
- 工場内の既存無線機器の周波数を把握する
- 使用するチャンネルを他の機器と重ならないように計画する
- 可能な限り5GHz帯または6GHz帯(Wi-Fi 6E)を使用する
- APは金属柱や大型設備の影にならない位置に設置する(15〜20m間隔が目安)
- 重要制御系(AGV、クレーンなど)は有線LANまたは産業用無線を併用する
- 導入後も電波状況を常時監視し、レイアウト変更時には再調査する
特に5GHz帯・6GHz帯は2.4GHz帯より空いており、電子レンジやBluetoothの干渉を受けにくいのが特徴です。ただし、2.4GHzより障害物に弱いため、APの設置間隔を短くする必要があります。
工場無線LAN導入のベストプラクティス
新設工場の場合
- Wi-Fi 6E(6GHz対応)を全面導入:最も空いている周波数帯を使い、将来の規格拡張にも対応
- 重要制御系以外は基本無線化。ただしAGVの走行制御などリアルタイム性が求められるものは有線併用
既存工場の場合
- まず有線LANでカバーできないエリアから無線化を開始
- タブレット端末やハンディターミナルなど、モバイルが必要な用途に限って無線化
- 既存の2.4GHz機器を考慮し、5GHz帯メインで設計
- APは15〜20m間隔で設置(オフィスより密に配置)
- 電波状況を常時監視する仕組みを導入(ログ分析で問題箇所を早期発見)
まとめ
- 工場の無線LANはWi-Fi 6 / 6E(5GHz/6GHz)が最適。2.4GHzは干渉リスクが高い
- 「電波で精密機械が誤動作する」という心配は、スマホを持ち歩いている現状を考えれば成立しない
- 実際の課題は「誤動作」ではなく「電波干渉でWi-Fiがつながらない」こと
- 干渉対策として、事前の電波調査(サイトサーベイ)と適切なAP配置が必須
- 重要制御は有線+無線のハイブリッド構成が現実的


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