はじめに LANネットワークの仕組みを調べたときのメモ
LANネットワーク工事を行ったとき、「なぜネットワークがつながるのか」「どんな通信をしているのか」を調べた内容をまとめました。PLCとPC、PLC同士がデータをやり取りするためのネットワークの仕組みを、現場の視点で解説します。
プロトコルとは「通信の約束事」です。電気信号のレベルからデータの意味解釈まで、いくつものルールが階層的に決められています。この階層構造を整理したものがOSI参照モデルです。
ネットワークとは
ネットワークとは、複数のコンピュータや機器をケーブルや無線で接続し、データをやり取りできるようにした仕組みです。工場内の設備をつなぐ「LAN(Local Area Network)」は、限られた範囲内(工場・事務所など)で機器同士を接続するネットワークです。
ネットワークに接続されたすべての機器(PC、PLC、サーバー、プリンターなど)は、互いに通信するための「住所」を持っています。
なぜネットワークがつながるのか 2つのアドレスとARP
ネットワーク通信には、2種類の「住所」が使われます。
IPアドレス(論理アドレス)
ネットワーク上の位置を示す住所です。「192.168.1.10」のような数字で表されます。インターネットや工場内LANで、相手を特定するためのアドレスです。
MACアドレス(物理アドレス)
ネットワーク機器(NIC)に工場出荷時に割り当てられた固有の番号です。「00:1A:2B:3C:4D:5E」のような形式で、世界中で重複しないように管理されています。
ARP 2つのアドレスを橋渡しする仕組み
「IPアドレスは知っているが、実際にデータを届けるにはMACアドレスが必要」という問題を解決するのが、ARP(Address Resolution Protocol)です。
通信の流れは以下の通りです。
- 送信元が「このIPアドレスを持つ人はいますか?」とLAN全体に問い合わせる(ブロードキャスト)
- 該当する機器が「私です」と自分のMACアドレスを返答する
- 送信元はIPとMACの対応を「ARPキャッシュ」に記憶し、以降は直接データを送信する
このARPキャッシュがあるおかげで、2回目以降の通信はLAN全体に問い合わせることなく、効率的に送信できます。ARPは普段意識されることのない「縁の下の力持ち」で、ARPがなければ同じLAN内の通信は一切成立しません。
補足 スマホのMACアドレスはランダム化されている
ここまでMACアドレスは「工場出荷時に割り当てられた固有の番号」と説明しましたが、最近のスマートフォンには注意点があります。iOS・Androidなどの主要OSでは、Wi-Fi接続時にネットワークごとに異なる仮想MACアドレス(ランダム化されたMACアドレス)を自動生成して使用しています。
これはプライバシー保護のためのセキュリティ対策です。MACアドレスは機器固有の番号のため、固定のままだと公共Wi-Fiなどで接続情報を収集され、その番号を手がかりに個人の行動追跡やプロファイリングが可能になってしまいます。そこで、接続先ネットワークごとに異なるMACアドレスを名乗ることで、端末の特定や行動の追跡を困難にしています。
各OSでの設定
| OS | 機能名 | 設定箇所 |
|---|---|---|
| iOS 14以降 | プライベートWi-Fiアドレス | 設定 → Wi-Fi → ネットワークの「i」→ プライベートアドレス |
| Android 10以降 | ランダムMACアドレス | 設定 → ネットワークとインターネット → Wi-Fi → プライバシー |
| Windows 11 | ランダムなハードウェアアドレス | 設定 → ネットワークとインターネット → Wi-Fi |
iOS 18以降では「固定」(ネットワークごとに固定のプライベートアドレス)と「ローテーション」(2週間ごとに変更)の選択が可能です。
工場現場での注意点
この機能は便利な反面、MACフィルタリング(許可リストによるアクセス制御)を使っている社内Wi-Fiでは、許可リストのMACアドレスと一致しないため接続できないことがあります。その場合は、該当ネットワークの設定で「プライベートアドレスをオフ」「デバイスのMACを使用」に切り替える必要があります。
また、ログ管理上も同一端末が別デバイスのように見えることがあるため、端末特定が必要なネットワークの運用では注意が必要です。
どんな通信をしているのか OSI参照モデル
OSI参照モデル(Open Systems Interconnection Reference Model)は、国際標準化機構(ISO)が1984年に策定した、ネットワーク通信の機能を7つの階層(レイヤ)に分類したモデルです。
重要なのは、OSI参照モデルは「実際のプロトコル」ではなく、通信の仕組みを整理した指針(モデル)だということです。
| 階層 | 名称 | 役割 | PLC/産業機器での例 |
|---|---|---|---|
| 第7層 | アプリケーション層 | アプリケーション間のデータ交換 | CIP(EtherNet/IP)、HTTP、FTP |
| 第6層 | プレゼンテーション層 | データの形式変換、暗号化 | データのエンコード方式 |
| 第5層 | セッション層 | 通信の開始・終了の管理 | PLC間のコネクション管理 |
| 第4層 | トランスポート層 | データの信頼性保証 | TCP(確実な通信)、UDP(高速) |
| 第3層 | ネットワーク層 | 経路選択(ルーティング) | IPアドレスによる通信経路決定 |
| 第2層 | データリンク層 | 隣接機器との直接通信 | MACアドレス、イーサネットフレーム |
| 第1層 | 物理層 | 電気信号・ケーブルの規定 | LANケーブル、RS-485、コネクタ形状 |
TCP/IP 4階層モデルとの対応
実際の通信で使われているTCP/IPは、OSI参照モデルをより実用的にまとめた4階層モデルです。OSIの7層のうち、上3層(アプリケーション・プレゼンテーション・セッション)がTCP/IPの「アプリケーション層」に統合されています。
| TCP/IP階層 | 対応するOSI層 | 代表的なプロトコル |
|---|---|---|
| アプリケーション層 | 第5〜7層 | HTTP、DNS、FTP、SMTP |
| トランスポート層 | 第4層 | TCP、UDP |
| インターネット層 | 第3層 | IP、ICMP、ARP |
| ネットワークインターフェース層 | 第1〜2層 | イーサネット、Wi-Fi |
データの流れ カプセル化
データが送信されるとき、各階層で「ヘッダー」と呼ばれる宛先情報などが付与されていきます。これをカプセル化と呼びます。受信側では逆にヘッダーを外していきます(非カプセル化)。
階層によってデータの呼び名が変わります。
- 第7〜5層:データ
- 第4層:セグメント(TCP)
- 第3層:パケット(IP)
- 第2層:フレーム(イーサネット)
- 第1層:ビット(電気信号)
例えば、PCからPLCにデータを送る場合、アプリケーション層でデータが作られ、トランスポート層でTCPヘッダー(ポート番号)、ネットワーク層でIPヘッダー(IPアドレス)、データリンク層でイーサネットヘッダー(MACアドレス)が付与され、最終的に電気信号としてケーブルに流れます。
PLCネットワークとOSI参照モデル
PLCのフィールドネットワークをOSI参照モデルで考えると理解しやすくなります。
例えば EtherNet/IP の場合:
- 第1〜2層:標準Ethernet(LANケーブル、スイッチ)
- 第3〜4層:TCP/IPまたはUDP/IP
- 第5〜7層:CIP(Common Industrial Protocol)
CC-Linkの場合、第1〜2層は独自の専用ケーブル規格ですが、CC-Link IE TSNでは第1〜2層にギガビットEthernetとTSNを採用しています。
トラブルシューティング どの層の問題か
ネットワークの階層構造を理解すると、障害時の切り分けがスムーズになります。「どの層の問題か」を順番に確認します。
- 第1層(物理):ケーブル断線・接触不良・コネクタ抜け。リンクランプの点灯確認
- 第2層(データリンク):MACアドレス設定・スイッチのポート設定
- 第3層(ネットワーク):IPアドレス設定ミス・サブネットマスクの不一致・重複IP
- 第4層(トランスポート):ポート番号・ファイアウォール設定
- 第7層(アプリケーション):PLCのタグ設定・通信プログラムの設定
現場では「ケーブル不良(第1層)か、IPアドレス設定ミス(第3層)か、アプリケーション設定(第7層)か」と下の層から順に確認すると、原因特定が速くなります。
まとめ
LANネットワークの仕組みをまとめます。
- ネットワークは「IPアドレス(論理)」と「MACアドレス(物理)」の2つの住所で通信する
- ARPが2つのアドレスを橋渡しし、LAN内の通信を成立させている
- OSI参照モデル(7階層)は通信の仕組みを整理した指針。実際の通信はTCP/IP(4階層)
- データは各階層でヘッダーが付与され(カプセル化)、送受信される
- トラブル時は「どの層の問題か」を下から順に切り分ける
ネットワークの仕組みを理解しておくと、LAN工事の配線設計から通信トラブルの原因特定まで、現場で役立ちます。


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